月刊青島--青島日本人会生活文化会発行
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青島の空の下で(72)  
   

久しぶりに旧市街の案内に出かけた。連れは辞令から半年以上遅れて青島入りした2人である。まず小魚山から始める。小高い丘の上に立つ中国風展望台の回廊に出ると旧市街と第一海水浴場に続く八大関が一望できる。特に樹々の中に赤い屋根と黄色の壁に統一された家並は中国のイメージにはない。かつては旧市街にあっては教会の尖塔が一番高い建物であり、統一が取れていた。再開発で大きなそれもピンク色のデパートを建てたため周りの景観も歴史遺産も破壊してしまったのは返す返すも残念に思う。

海洋大学(かつての青島中学)を通って、次に訪問するのはドイツ総督(4代目)が建てた総督邸。堅牢な石造りが丘の中腹にあって素晴らしく見晴らしの良いところ。2階の一番よい部屋が子供部屋と説明がある。建築費が嵩んで本国からの減給処分に腹を立て帰国したという。毛沢東や高官も一時期住んだ部屋が展示されている。その後迎賓館として使われ今は博物館となっている。

迎賓館からダラダラと歩いていくと広場に面した旧ドイツ総督府。洋式の歴史建築が立ち並ぶ江西路を通って天主教会堂の広場に出る。平日の昼前でまだ肌寒いなか、肩を出したウエディング衣装の娘さんが写真撮影に何組もタムロしている。最近は黒いイブニングドレス(?)も流行っているらしい。白だけではない衣装と美女を見るのに忙しい。

海岸通りに出ると桟橋が待っている。海に突き出した歩廊を歩いて小さな建物に行き着くが取り立てて何かあるわけではない。おり返して海岸から山の中腹までの段々にある景観が素晴らしい。先の旧総督府を中心にパノラマを楽しむことが出来る。ここから西に行くと青島駅、東に行くと監獄博物館というのもある。しかし、気の利いた喫茶店がなく、喉が渇き、足が疲れてきた。時計は昼になろうとしている。昼食は王朝大酒店の屋上にある回転レストランのバイキングに決めタクシーで向かう。

昼時で予約なしだと案内された席は窓側ではなかった。その時、スマホと一緒に右のポケットに入れていた名刺入れがないのに気づいた。この中には名刺のほか、居留証とバスのパス、若干の会員カードに100元札を挟んでいた。居留証が一番問題だ。迎賓館で出した記憶があるのでそこにまず聞いてもらうことにして、とりあえずは食事に取り掛かろうとしたところ携帯に呼び出し音が鳴った。苦労して聞きだすと今乗ってきた運転手からで、こちらの居場所を言って連絡が切れた。ちょうど回転する座席とエレベータの乗降口が一直線になった時、幸運にもその運転手が出てきて目があい、私の名刺入れを差し出してくれた。大事な身分証もそのまま入っている。「謝〃」の他に伝えたい言葉がでないもどかしさのままに運転手はエレベータの方に戻っていくので慌てて追いかけ、名刺入れに挟んでいるお金をしきりに断られたがエレベータに乗る寸前にポケットに捻じ込むようにして渡した。

タクシー代をスマホで払うときに滑り落としたらしい。それを見つけて名刺にある電話番号に電話し、わざわざ届けてくれた。素晴らしい運転手に巡り合ったわけである。
ゆっくり食事に浸り、午後はビール博物館を訪問し、美味しい出来立てのビールを飲み、観光に人情も堪能して青島旧市街観光を終えた。     (I)

 


 
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